自主講座の準備のためにトラウマと物語行為に関連する既読の本の重要箇所を再読するとともに、それらに引用されているフロイトのテクストの該当個所を原文と比べながらチェックしていった。
私も翻訳はあまり上手くないので人のことは言えないのだが、現行の人文書院版は訳者によってわかりやすさにかなりの違いがある。複数の、しかも学識があってかつ個性の強そうな訳者がそろっているので、訳文を統一することは難しかったとは思うが、このままでは読みやすい訳文のテクストに偏ったフロイト受容は避けがたいのでは、と危惧してしまう。
授業などで使いたくても、ドイツ語原文と対照させない限り、「フロイトは難解である」という誤解を与えてしまうだけではないか、と不安になってしまうのは私だけだろうか?
(正直に告白するが、大学に入学してすぐに読んだ某文庫版の何冊かはさっぱり理解できなかった。無論、私の理解力それ自体にも問題があったのだが、文体にどうしてもなじめなかったのだ)
聞くところによれば、現在、新しい日本語訳フロイト全集が準備されているそうだが、この全集ではぜひ読みやすい文章を心がけて欲しいものである。
日本の臨床心理学の現状を垣間見るに、フロイトは最近きちんと読まれていないと推測されるが、それは少なくとも日本の場合、訳文がわかりにくさや、古めかしさに負うところがかなりあると私はにらんでいる。
しかし、フロイトはまだまだこれから繰り返し何度も読まれ、再解釈されるべき思想家である。少なくとも私の守備範囲ではそうだ。
そんなわけで、未刊の新訳に期待するところ大である。
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